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 novel's Matome 

遠くに声が聞こえていた。 それともあれは風の音だったろうか。深い緑の間を抜けてゆく風が、そこここでささやき交わしている声だろうか。 少女はひとり立ち尽くしている。こんなことは久しくなかった。ただひ...
Modify : 2017-02-18 21:41:15 ✎ novel
女の叢(くさむら)に隠された秘苑にも似ている。 朱に塗れた肉の破片が、細かな白い骨と共に飛び散る。夫を恋しいと蜜をこぼし泣いて、夜な夜なむずがるところに似ている肉が。この数日間、何度もそんな飛び散る...
Modify : 2017-02-18 21:41:04 ✎ novel
俺はおそらく永く生きることはないだろう。戦で矢を射られ刃で切り裂かれるか――あるいは怒りで全身の血が沸き立ち憤死するかだ。 戦国の世に生をうけた故ではなく、ただ俺という人間は永く生き穏やかに死を迎え...
Modify : 2017-02-18 21:40:53 ✎ novel
宮津(みやづ)に築城した藤孝(ふじたか)を、連歌会を兼ねて訪ねた光秀は、戦にも出られぬほどの大病を患ったあとの病み上がりの身体だった。長い道のりを馬に揺られ辿り着いた宮津湾は美しく、夕暮れの水面に、病...
Modify : 2017-02-18 21:40:22 ✎ novel
越前の片田舎から、勝龍寺城(しょうりゅうじじょう)の忠興(ただおき)様の元に嫁ぐ折、華やかな街の中に暮らせるのかと密かに期待しておりました故、田に囲まれた城に通され、しばらくのうちは気落ちしておりまし...
Modify : 2017-02-18 21:40:07 ✎ novel
ホテルの最上階にあるバー『サンタマリア』のカウンターで俺はスコッチをロックで飲み続けていた。「少しペースが速いようですが……」「放っておいてくれ。飲みたいんだ」肝臓が壊れてもいい。俺は妻、珠里(じゅり...
Modify : 2017-02-18 21:39:57 ✎ novel
赤ん坊の世話を終えて妻が立ち上がると、夫はベビーカーの取っ手をつかんだままあらぬ方角を向いていた。「どうしたの?」「おかしな夫婦だと思ってさ」「私たちのこと?」「それは今さらだろ。そうじゃなくて、...
Modify : 2017-02-18 21:39:19 ✎ novel
田とは水田のこと。辺とはそのあたりということ。ならば田辺(たなべ)とは水田にほど近いという意味か。田辺城と名を持つ城は京都府舞(まい)鶴(づる)市と和歌山県田辺市にそれぞれあった。舞鶴は田辺城の別称、舞...
Modify : 2017-02-18 21:39:08 ✎ novel
「どっこいせ、どっこいせ」 と、声を合わせ進む。リズムを刻むことで足を揃え、力のタイミングを取る。リズムに合わせるならば、それはさながら歌であり、足のさばきが洗練されれば舞いとなる。 そうして木材...
Modify : 2017-02-18 21:38:53 ✎ novel
事件から七日がすぎても、細川与一郎忠興(ただおき)の気持ちは晴れなかった。父藤孝(ふじたか)が非情だとは知っている。他に方法がなかったかもしれない。だがあそこまで酷(ひど)いことをする必要はなかったはず...
Modify : 2017-02-18 21:32:12 ✎ novel

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