物語と謎で宇多津案内「宇多津のおひなさん」(5)
さあ円通寺へやって来ました。 ここで、物語を読み、謎を解き、指定された場所にいきましょう!  物語の謎を解きながら観光を同時に楽しむ体験型のまちおこしノベルゲームです。 「謎解き+町めぐり+短編小説」の3つが同時に楽しめます。 さあ、挑戦しクリアしよう!
Updated Date : 2017-03-31 15:42:14
Author ✎ novel
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4. 物語を読み、謎を解こう
物語3:「雛人形の思い出」著:石田 隆
 東京谷中にある老舗の質屋「撫子」は、外観こそ町家造りで歴史を感じさせる建物だが、内部はそれに似つかわないモダンなデザインの装飾が施され、どことなく瀟洒な感じであった。伝統の中にも新しい雰囲気を醸し出す店構えや高価買取などが若者に支持され、「撫子」は世の不景気にもかかわらずいつも盛況だった。  二代目店主、沢村裕治は年齢五十七歳。豊富な知識を武器に優れた鑑定眼力と経営能力を兼備え、上品で礼儀正しい人柄もあって父から引き継いだ「撫子」を一気に急成長させた。そんな慌ただしい毎日の中で裕治の楽しみといえば今年五歳になる孫娘の陽菜と過ごすことだった。陽菜はいつも幼稚園から帰ると決まって「撫子」に行き、裕治とのひとときを楽しんだ。  立春を向かえたこの日、暦とは裏腹に一年の中でも特に冷え込む時期であるかのとおり、明け方より雪が降り続き、都内では珍しく大雪となった。そのためか、いつも活気ある店内には殆ど客の姿はなく、開店休業の状態だった。そんな中、陽菜は今日も母親の遙香といっしょに「撫子」にやってきた。  「陽菜、お爺ちゃんと一緒に雛人形の飾りつけをしようか」  「わぁーい」  陽菜がうれしそうな表情で、裕治に駆け寄っていく。 雪はまだまだ降り続き、いっこうにやむ気配がない。今日はさすがに客が見込めないと思い裕治は早めに店じまいをしていたので、陽菜との時間はたっぷりあった。  裕治の話を訊きながら、まずは陽菜が真っ赤な雛壇に人形を一つひとつ丁寧に並べていく。するとその様子を見ていた遙香が近づいてきた。  「お義父さん、仲間に入れてもらっていいかしら。二人の姿を見ていたら、何だか懐かしい気持ちになっちゃって」  遙香がいうと、裕治の返事より先に陽菜が答えた。  「いいよ。そしたらママはこっちをお願いね」  遙香は陽菜のいうとおり、雪洞、ひし餅、桃の花などを手際よく置いていく。気がつくと、いつの間にか飾りつけの主導権は陽菜になっていた。  飾りつけに遙香が加わったこともあり、裕治は休憩がてら二人の様子を眺め、一人幸せなひとときを噛みしめていた。そして、この雛人形がやってきた時のことを思い出していた。  今から五十年前、裕治の父勝之が質屋「撫子」を始めて、暫くたった頃である。その頃は勝之の目利きに対する信頼や温厚な性格が徐々に人を引き付け、地元を中心に「撫子」の評判が一気に高まった時期でもあった。そこへ若き夫婦と歳にして五歳くらいの娘が「撫子」にやってきた。勝之が訊くところ、家族は訳あって京都からトラックに家財を積み込み、この地に越してきたという。しかし、新居はひと部屋しかないアパートのため、すべての家財をおさめることができず、その一部を処分するため訪れたという。話を訊いた勝之は、 大よその察しがついてか、そんな家族のためできるだけ高価で家財を引き取ってやるよう努めた。そして勝之が家財の一つひとつを鑑定していくうち、幾つもの桐箱のかたまりが目に入った。家族に中身を尋ねると、京都にいた頃、娘の出産のお祝いに、とある名高い旧家の方から贈られた雛人形だという。鑑定のため桐箱を空けると、端整な顔立ちに優雅な着物をまとったお雛様が姿を現した。京雛特有の趣と深みのある色合いに、美しく優美な意匠と伝統の技が随所に生かされていた。それはまぎれもなく京人形をつくる名匠の作品に違いなかった。勝之は思わず唾を呑み込んだ。箱からお雛様を取り出し、細部を観察すると、傍らにいた娘が寂しげな表情で人形を見つめ、話しかけてきた。  「おじちゃん、人形たちを大切に預かってね。いつかきっと迎えにくるから」  勝之は大切な人形たちを手放したくないこの子の気持ちが手に取るようにわかった。でもそれができない訳もこの子は十分わかっているのだろう。それを思うと不憫でならなかった。  「この人形たちは、いつかお嬢ちゃんが引き取れるまで、おじさんが大事に預かっておくからね」  「うん。おじちゃん、きっとだよ。約束ね」 娘はそういうと満面の笑みを残して店を後にした。  それからのこと、勝之は毎年、店先に雛人形を飾り、あの娘が引き取りに来るのをずっと待った。十年、十五年と歳月は過ぎ、二十年目を迎えた立春の日であった。今年もいつものように雛人形を飾り、店先で展示していたところに一人の女性が尋ねてきた。その女性は店先の雛人形を静かに只々じっと眺めていた。すると接客を終えた裕治がそれに気づき女性に話しかけた。  「もしかしてあなたは、二十年前にこの人形をお預けいただいた方ではありませんか」  「ええ、立花靖子と申します。」  「ずっと待っていましたよ。やっとお会いすることができましたね。」  「その節は有難うございました。ところであなたは」  「ここの主の沢村裕治と申します。父がこの人形を預からさせていただき、毎年のように店先に展示し、あなたのお越をずっとお待ちしておりました。父もあなたがお越しになるのをとても楽しみにしておりましたが、昨年亡くなりました」  「そうでしたか。お父様はずっとお約束を守ってくださったのですね。そしてあなたもお父様のお約束を引き継いで私を待っていてくれたのですね」  靖子は勝之と裕治の心遣いにいたく感動し、涙が止まらなかった。  「あれ、お内裏様とお雛様の並べ方ってこれでよかったかな」  陽菜が突然思いついたようにいった。  「この雛人形は京都のものだから、陽菜がよく見る並べ方とは反対になるんだよ。陽菜から見てお内裏様は右側に、お雛様は左側に並べるんだよ。昔の日本はすべてこういう並べ方だったんだよ」  「陽菜には少し難しかったかな」  遙香がさりげなくいった。  「ところで遙香さん、ひし餅はなぜ桃、白、緑なのかわかるかい」  「それは・・・・・」  「桃は魔除け色。白は子孫繁栄、長寿、純潔を、緑は健やかな成長を願う意味があるんだよ」  「お義父さんって本当、何でも詳しいんですね」  「お爺ちゃんすごい」  遙香に続き陽菜にも褒められ、裕治はとても照れくさい気分になった。  「ところでお義父さん、この雛人形はお義母さんが京都から持ってきたものだとお聞きしましたが本当なんですか。」  「なんでそれを」  「昨年、お義母さんが亡くなる前にお聞きしました。細かいことはお話されませんでしたが。でも、一言だけ雛祭りの時期が近づいたら綺麗に飾ってくださいと。それを見たお爺さんは、きっと私のことを思い出してくれるからと」  「靖子がそんなことをいっていたのか」 裕治は出来上がったばかりの雛人形を神妙な面持ちで見つめ、靖子に「ありがとう」と心の中で呟いた。  「そういえば陽菜ねぇ、昨日お婆ちゃんの夢を見たの。お婆ちゃんといっしょに雛人形の飾りつけをしたのよ」  「それじゃいつまでもこの雛人形を大切にしないとね」  遙香がいうと、陽菜は小さく頷いた。  その様子を見ていた裕治の顔がほころんだ。そして何気に窓の外の景色を見ると、すでに雪は降りやみ、またいつもの賑やかな街に変わろうとしていた。 〈了〉

謎: 陽菜が飾りつけをする雛人形は誰のもの?

円通寺について
円通寺
讃岐33観音霊場第30番札所である。境内は室町時代の足利三代将軍義満の官領細川頼之公の居館跡と伝えられている。

円通寺へのアクセス
宇多津駅から徒歩で35分
34.30518747652035
133.82730066776276
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34.30518747652035,133.82730066776276,0,0,0
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デザインマンホール(No10)~大津市